ご挨拶


 有病率が人口100万人当たり数名程度未満の希少疾患では、医師にとって診療する機会は極めて少なく、病像に関する情報も乏しく、有効な治療法も確立していないことを経験します。そのため、希少肺疾患の診療や研究の発展には、自国内での疾患の全体像の把握と理解が不可欠であり、折りに触れて疫学調査が実施されてきました。しかし、ある一時期のみの集計にとどまり、断片的研究で継続性に乏しく、そのため、希少疾患の特徴や自然史を明らかにし新規治療法の開発につなげるという成果は得にくいものでした。そこで、日本呼吸器学会は、日常診療で経験する可能性のある希少肺疾患を継続的に登録する制度を創設し、希少疾患の診療や研究の基盤となる公的データベースを構築することが必要と考えました。海外では、希少疾患のみならず比較的有病率の高い疾患でも継続的に登録する制度が設立され、早期診断や病像の理解、治療の進歩につなげる取り組みが、以前から行われています。
 本研究では、呼吸器学会に帰属する公的な希少肺疾患登録制度を創設し、患者さんの同意を取得した上で担当医師に継続的に診療情報を入力していただき、希少疾患の自然史、予後、病態や治療法開発研究の基盤となりうるデータベースを構築したいと考えております。事業の手始めとして、「難病に指定されていて、新規治療薬が開発された、あるいは開発中の疾患で、有病率が多すぎない疾患」が着手しやすい疾患と考え、リンパ脈管筋腫症(LAM)、α1-アンチトリプシン欠乏症(AATD)、の2疾患を対象として開始する事としました。また、事務局は、2疾患(LAMやAATD)の診療実績の豊富な順天堂大学附属順天堂医院呼吸器内科に置くこととしました。
 LAMは、病気が見つかる契機、病変の組み合わせ、進行する早さ、重症度、などに個人差があることがわかってきました。現行の難病制度では、医療費助成対象となる重症度II以上の患者さんのみが登録されるため、重症度Iの軽症患者さんがどのくらい存在するか今後もわからないままです。本来、軽症例が重症化しないよう治療法や管理法を研究することが大切な課題ですが、国の制度では、このような大切な情報が得られません。我々の登録制度では、軽症LAM患者さんも含めた日本のLAMの実態が明らかになり、継続的にデータを収集して解析していくことが大切な特徴であり、意味ある成果をもたらすことが出来ると信じています。
 AATDは、生まれついての体質(α1-アンチトリプシン欠乏)により慢性閉塞性肺疾患(COPD)に罹患するリスクが高い疾患です。AATDではない方(α1-アンチトリプシン正常)がCOPDと診断されるのは60歳代が最も高頻度ですが、AATDの方は通常50歳以前に発症します。最近、国内のAATD患者さんにα1-アンチトリプシン補充療法の治験が終了し、数年以内に保険診療で治療が受けられるようになることが期待されています。治験前の横断的疫学調査(ある一時期の調査)では、軽症例も含めて国内には24名のAATD症例がいると推計されました。しかし、保険適応薬が誕生すれば、より多くの症例が登録される可能性があり、“国内AATDの真の実態”が明らかになると思います。北海道COPDコホート研究の成果では、日本のCOPD患者さんと欧米のCOPD患者さんでは、その病像が異なることが明らかになってきました。登録制度に参加していただければ、日本人AATD患者さんに対するα1-アンチトリプシン補充療法の治療効果や予後への影響なども、欧米諸国の成績とは異なることが明らかになるかもしれません。

事務局

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